「悲しみの連鎖を断ち切りたい」全国に約67万台あるのに…心停止後のAED使用率はわずか4.3%。医師が“無料アプリ登録者100万人”を目指す理由

「悲しみの連鎖を断ち切りたい」全国に約67万台あるのに…心停止後のAED使用率はわずか4.3%。医師が“無料アプリ登録者100万人”を目指す理由

「AEDを動かすのは勇気じゃない。知識だ。」

心臓が原因で突然心停止となる人は、なんと1年間で約9.1万人。
一日に約200人、7分に1人が心臓突然死で亡くなっています。(日本AED財団HPより引用)

そんな中、2011年さいたま市の小学校で駅伝の練習中に心肺停止となり、AEDが使われることなく亡くなった当時小学校6年生だった桐田明日香さんの出来事がきっかけで開発された、ひとつのアプリがあります。
その名も、「救命サポーター team ASUKA」。

今回MOREDOORではこのアプリの企画を担う日本AED財団 減らせ突然死プロジェクト実行委員の千葉市立海浜病院 救急科 統括部長の本間洋輔医師と桐田明日香さんのお母様へ話を聞きました。

ー「救命サポーター team ASUKA」とは?


(以下、本間洋輔医師)
AEDのマッピング、最も近くにあるAEDの検索、教育ツールなどAEDに関わるさまざまな機能が入ったアプリです。
AEDは、日本全国で約67万台あると言われています。ですが、心停止後のAED使用率はたった4.3%(総務省消防庁:令和5年版救急・救助の現況より)。

AEDは設置登録に対する法的義務がなく「せっかく設置されているのに、どこにあるのか分からない」ことが多いのが現状です。

そこで「救命サポーター team ASUKA」では、AED検索機能のほかに、AEDを見つけたら登録できる機能や、救命処置を学ぶ動画なども用意しました。

ー「救命サポーター team ASUKA」誕生の背景とは?


2011年当時小学校6年生だった桐田明日香さんが亡くなった時も、じつは保健室にAEDがありました。
元看護師である桐田明日香さんのお母様はこう振り返ります。

「この事故には多くの教訓がありました。
学校の保健室に設置されていたAEDが使用されなかったこと。
教員全員が3か月前に救命講習を受けていたにもかかわらず、明日香に、けいれん・苦しそうな呼吸などSOSのサインが出されていても、救命の行動につながらなかったこと。
消防の指令センターによる現場の状況の聞き出しが充分にされなかったこと……などがあげられます。

この明日香の出来事は、決して特殊なことではありません。
いまでもどこでも起こりうることです。

明日香が倒れた時に、AEDの使用を含む心肺蘇生が行われなかったのは、「意識がないこと」を教員が最後まで分からなかったことと、「脈あり」「呼吸あり」との情報から安心してしまったことから重大事故として判断できなかったことが原因にあげられました。
重大事故との認識ではなく、生きている証拠探しに徹してしまった11分間でした。

ヒューマンエラーの視点を含む分析作業を経て、その分析の結果、作成されたものが【ASUKAモデル】となる事故対策のテキストです。
意識や呼吸の判断に迷ったら、すぐに胸骨圧迫とAED使用を促す行動チャートもテキストに入れました。

AEDは診断する機能を持っているので、間違って使ってしまうことはありません。
AEDを使うことで病状を悪化させることもありません。

空振りしてもOKという気持ちでAEDを積極的に使用して欲しいです。
AEDは飾る物ではなく、使うものなのです。」

さいたま市では、新たな救命ガイドラインの制作がなされ【ASUKAモデル】として活用されるに至り、
2014年からはさいたま市のすべての小学校に救命教育が導入。
小学生も救命活動を学んでいます。

心停止の直後には、けいれんがあったり、呼吸しているように見えたりと、心停止かどうかの判断に迷う状況が起こり得ます。
AEDの使用は倒れてから5分以内が目標で、「電気ショックが必要かどうか」を自動的に判断してくれる、安全な器械です。

「もしあの時、近くにあったら」
「もしあの時、AEDが判断してくれると知っていたら」

自己判断ではなく、勇気をもって119番通報とAEDを使用することが当たり前となる世の中になってほしいと日本AED財団 減らせ突然死プロジェクト実行委員の方々がアプリを開発。
明日香さんが大好きだった家族、友達を救える「明日」へ願いを込めて、登録くださる救命サポーターの皆様を「team ASUKA」と名付け、桐田明日香さんへの想いを伝える動画も作成し、アプリやyoutubeでも公開しています。

ーAEDをめぐる現状は?


(画像出典:公益財団法人日本AED財団HP)
AEDは日本全国にありますが、その多くが“屋内”にあります。

例えば夜間や休日で会社が施錠された後、近くで誰かが倒れても「建物の中に入れずAEDを持ってくることができない」場面があります。
また出かけ先などで倒れた人に遭遇した場合、「最も近いAEDの在りか」を瞬時に推測できる人はまれですよね。

さらに急に誰かが倒れたら、まず周りの人は頭が真っ白になってしまうのではないでしょうか。
AEDは、周りの人が冷静ではいられないことを前提に作られています。

AEDと胸骨圧迫をすることで、救命率は大幅に上昇します(図)。
いざという時に胸骨圧迫とAEDが使えるように準備をしておくことが重要です。

ですので、
・AEDがどこにあるかすぐにわかること
・いざという時に備え、AEDや119番通報を含めた救命処置の方法を知っておくこと

この2つがとても重要だと考えています。

 ー「救命サポーター team ASUKA」の使い方は?


メールアドレスを登録すると、アプリ内のAEDマップである“AEDN@VI”で個人が見つけたAEDを地図上に登録したり変更したりすることができます。
また“最寄りのAEDを検索”ボタンをクリックすると、現在地からAEDマップに登録されている最短のAEDまでの経路と、距離、およその分数が表示されます。
徒歩か自転車のどちらかをその場で選択することも可能です。

 ー「救命サポーター team ASUKA」には他にどんな機能が?


救命処置を誰でも簡単に学べる動画や、SNS機能もあります。

学んだり参加したりするごとに“バッジ”を獲得できる仕組みです。
子どもたちにも楽しく学んでもらえるように、うんこドリルとコラボした「うんこ救命ドリルAED編」もプレイすることができます。

AEDの講習は、多くの方が受けたことはあると思いますが、なかなか復習する機会はありません。
講習を受けて終わりではなく、日頃から身近に感じてほしいなと思い、親子で楽しんで頂ける機能を追加しました。

ー今後の活動は?


私たちは日本の1%の方にこのアプリを使ってもらうことを目標にしています。
数で言うとおよそ100万人。

より多くの方に使っていただくことで、全国67万台のAEDを網羅でき、助かるはずの命を助けられるはずだと信じています。

桐田明日香さんのお母様は、
「ASUKAモデル誕生から8年を迎え、その活用による突然死からの救命事例が全国から多数聞けるようになりました。
救命の普及活動が広がっていくことで、救える命が救える社会になることで、悲しみの連鎖を断ち切っていきたい」と語っています。

「救命サポーター team ASUKA」を通してAEDを身近に感じていただき、日本の救命率が上がって助かるべき命が助かるように、今後も活動を続けてまいります。
(NPO法人 ちば救命・AED普及研究会 理事長 本間洋輔医師)

(画像出典・引用:公益財団法人日本AED財団HP)