「苦手なことが少し多いだけでみんなと変わらない」
不注意と多動・衝動性を主な特徴とする、発達障害の概念の一つとされている『ADHD』。(厚生労働省e-ヘルスネットより引用)
日常生活の小さなトラブルが、実はADHDのサインかもしれないと気づく瞬間。
私たちはそんな繊細な日々の変化にどう向き合えば良いのでしょうか?
ADHDのパートナーと結婚して7年目になるKさん(仮名)は、パートナーがADHDということに偏見の目を向けられたことから、実際には苦手なことが多いだけでみんなと変わらないことを知ってもらいたいと考えています。
そこで今回のMOREDOORでは、Kさんの体験談を通じてパートナーがADHDであることに気づいたきっかけ、日々の生活での悩み、そしてそれらにどう対処しているのかと、夫婦関係の専門家カップルセラピストからの意見をご紹介します。
※当事者の声はさまざまです。あくまで一例として、考えるキッカケになれば幸いです。
ーーパートナーがADHDかも?と気づいたきっかけは?
Kさん:大事な友人の結婚式の予定を忘れていたり、チェックイン時間に間に合わず連続して飛行機に乗り遅れたりなど、忘れ物やダブルブッキングが異常に多かったのを覚えています。
また、Youtubeを見ているときに声を掛けても全く気付かなかったり、預金の引き出しをしてそのままATMに現金を置いてきてしまうこともありました。
ADHDの症状の一つである「不注意さ」が垣間見えたことから、パートナーがADHDだと気づいたというKさん。
ATMのお金は銀行に問い合わせて無事戻ってきたようですが、不安や心配は続いたようです。
ーー日常生活を送る上で、悩んでいることは?
Kさん:予定の管理ができないことです。
また、全てを後回しにして期間内ギリギリに泣きついてきたり、忘れ物が多すぎることも悩みです。
ーーそうしたお悩みについて、解決に向けてどんな工夫をしましたか?
Kさん:予定の管理は、仕事も私用もスケジュール管理アプリにすべて入れ、一日の終わりに一緒に確認するようにしていました。
後回し問題に関しては、〇〇までに〇〇しないと△△禁止(例:明後日までに〇〇さんに電話で確認しないと一週間ゲーム禁止)と約束して一緒に確認しています。
忘れ物は、家を出る前に確認することができるよう、玄関ドアにホワイトボードで必要なものを書いて対策をしています。
この取り組みをしてKさんは「最初は嫌がってもルーティン化してしまえば、本人だけでも気を付けられる項目が増えている」ということに気づいたそうです。
ーーパートナーとは、どんな関係性を築いていきたいですか?
Kさん:一般的な夫婦のように持ちつ持たれつ仲良くしていきたいです。
ーー今後、社会に対して「もっとこうなったら良いのにな」と思うことは?
Kさん:パートナーがADHDだと言うと「あー……」と腫れ物のように扱われることがあります。
誰にでもその可能性があって、もしかしたら自分もそうかもしれないし、「苦手なことが少し多いだけでみんなと変わらない」ということを学校や家庭でも教えてほしいと思っています。
またさまざまな人にADHDのテストを受けてほしいです。
カップルセラピストは2人の関係をどう見る?
パートナー間の関係改善を目的としたカウンセリングを行う、“カップルセラピスト”はお二人の関係をどう見るのでしょうか?
日本人カップルをはじめ、英語を母国語とする異文化・国際カップルの課題解決もサポートするカップルセラピストの吉田さんに話を聞きました。
ーーKさんのお話をどう感じましたか?
カップルセラピスト吉田さん:「ルーティン化してしまえば本人だけでも気を付けられる項目が増えている」ということですが、
人はどうしても出来ていないことに目が向きがちなものです。
「出来るようになっていることに目を向けられている」ってなかなか出来ることではないと思います。
きっと、ここまで来るのに幾度となくぶつかり合ってこられたことでしょう。
工夫をすることによって自分で出来るようになることは、一つの大きなゴールだと思います。
いつもサポートするとなると、知らず知らずのうちに対等な関係性が築きづらくなることもしばしば。
「なんで私がここまでしなきゃいけないの!」という思いで辛くなってしまうこともあります。
失敗の多いADHDのパートナーにとって「あなたのおかげで助かってるよ」の言葉が心が楽になる魔法の言葉だったりするかもしれません。
パートナーへの感謝をお互い伝えることが、「持ちつ持たれつ」の関係の秘訣ですよね。
どこに目を向けるか
持ちつ持たれつの関係のベースにあるのは、お互いの感謝を伝え合うことと。
Kさんは大切な人の「苦手なことが少し多い」側面を認め、自分たちに合った新しい生活のアプローチを見つけていましたね。
出来ていることに目を向ける、それがより良い関係を築くための一歩を踏み出すキッカケになるのかもしれません。
みなさんは、この記事を読んでどのように感じましたか?
臨床心理士・公認心理師、COBEYAセラピスト。
2016年鳴門教育大学大学院修了。
スクールカウンセラー、心療内科、就労支援を経て、2021年よりカナダで依存症ケアを学ぶ傍ら、発達障害児の訪問支援に従事。2023年に帰国後COBEYAにカップルセラピストとして参画。日本人カップルをはじめ、英語を母国語とする異文化・国際カップルの課題解決をサポート。
(MOREDOOR編集部)